表記ゆれについて
文章を記述する際、例えば「あいさつ」という語句が漢字であったり、ひらがなであったり、あるいは数字が半角と全角が混じるなど、表記方法が分かれることがあります。そういった異なる表記が混在することを「表記ゆれ」と言います。
文字起こしでは反訳者ごとの「表記ゆれ」を防ぐため、独自の表記ルールを設けることもありますが、「新聞表記」で統一されることが多いです。
新聞表記とは
各新聞社で分かりやすい記事を書くために定められている漢字とひらがなの使い分けや外来語の統一的な表記法のことをさします。「新聞表記」や「マスコミ表記」と呼ばれています。
共同通信社が発行している『記者ハンドブック』や、朝日新聞社の『朝日新聞の用語の手引』が有名です。文字起こしの業界では共同通信社『記者ハンドブック』が利用されていることが多いようです。
ただしこれらは新聞記事上での「書き言葉」が中心の表記ルールのため、音声で多いインタビューなどの「話し言葉」を文字起こしする際には使いにくい点が見受けられることもあります。
記者ハンドブックについて
各報道機関が発行している自社内の出版物の表記ルールをまとめたもの。文章を書く際の細かな注意事項が掲載されており、迷いそうになる送り仮名や同音異義語の使い分けや慣用句の使い方などが例示されています。記者やライターなど文章書きには必須の書で、文字起こしにおいても表現・表記の統一用の指標の一つとしてよく利用されています。
記者ハンドブックの注意点
「書き言葉」をベースにしているため「話し言葉」としてはニュアンスが若干異なることがあります。例えば「ハロウィン」という言葉は記者ハンドブックでは「ハロウィーン」と表記します。あるいは「麻婆豆腐」という見慣れた言葉も記者ハンドブックでは「マーボー豆腐」と記載します。このように記者ハンドブックに基づくと普段の生活に溶け込んだニュアンスや実際の会話の文脈に齟齬が生まれる部分もあるため、「文字起こし」ではどこまで新聞表記に基づくかは対応が分かれるところもあります。
ここでは新聞表記(記者ハンドブック)での対応の他、日常的に使用されている通例の表記について一例を記載します。
常用漢字
一般の社会生活において、現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安として定められた漢字です。日本の学習指導要領では、義務教育の国語で習う漢字は常用漢字のみと規定しています。常用外の漢字の場合、音読みは読み仮名を添えて記載、訓読みはひらがなで記載するルールが主流です。
例)
- 音読み:楕円→楕円(だえん)
- 訓読み:穿つ→うがつ
常用漢字を使用しない例外
人名漢字
新聞表記では常用漢字を使用しますが、人名を表するときの人名漢字はこの原則から外れ、常用漢字以外で表記をします。また、人名漢字については人名以外で使用される場合も常用漢字に直さず表記されることがあります。
人名によく使われているが常用漢字ではない漢字の例)
「澤」「圭」「翔」など
ひらがな表記が適当な言葉
-
副詞
名詞以外の語句(動詞・形容詞・形容動詞など)を修飾し、詳しく説明をする語です。副詞には常用漢字表にない漢字と読みの語があります。また、副詞に続く動詞・形容詞・形容動詞は一般的に漢字で表記されることが多いため、漢字と読みが常用漢字表にある副詞でも多くの語句はひらがな表記が通例となります。
例)
予め あらかじめ 一旦 いったん 極めて きわめて 更に さらに 並びに ならびに 既に すでに 大変 たいへん 殆ど ほとんど 僅か わずか ただし、副詞でも常用漢字表にある語は一般的に漢字表記されることもあります。こういった語句は文書中で表記を統一することが基本となります。
例)
- 一段と
- 特に
- 例えば
- 多分
- 結構
- 全く
-
接続詞
前後の語句や文をつなぐ語句です。漢字の接続詞でつなぐと読みづらいため、ひらがな表記が一般的です。
例)
或いは あるいは 及び および 加えて くわえて 従って したがって 並びに ならびに 又は または 故に ゆえに また、接続詞で使う場合は「ひらがな表記」、動詞で使う場合は「漢字表記」とする慣用があるため、注意が必要です。
例)
接続詞
(ひらがな表記)動詞
(漢字表記)はたしてどうなったのか 予算を使い果たす したがって、今回は〜 規律に従う あわせて 併せてご検討ください -
形式名詞
実質的な意味がない、または本来の意味が薄くなっている名詞です。単体では意味をもたないため、通常、体言を修飾する「連体修飾語」を伴って用いられ、ひらがな表記が通例です。また、形式名詞以外にも補助的に用いる名詞はひらがな表記が通例です。
例)
〜する事 〜すること 〜する度 〜するたび 〜の通り 〜のとおり 〜所 〜ところ 〜の方 〜のほう -
補助動詞
動詞が語句本来の意味が薄れ、直前の語句に補助的な意味をそえる動詞です。補助動詞はひらがな表記が通例です。
例)
有り得る/在り得る ありうる 〜して行く 〜していく 〜頂く 〜いただく 〜して見る 〜してみる 〜出来る 〜できる -
助動詞
用言や体言などに付属して意味をそえ、大きな述語のまとまりをつくる語句です。補助動詞と同じく、ひらがな表記が通例です。
例)
〜の如く 〜のごとく 〜し無い 〜しない 〜の様に 〜のように また一部の形容詞、補助形容詞、形容動詞など、ひらがな表記が通例になるものがあります。
例)
綺麗 きれい 美味しい おいしい 易しい やさしい -
連体詞
すぐ下の体言を修飾し、意味をくわしく説明する語句です。自立語で活用がなく、主に連体修飾語となります。こちらもひらがな表記が通例です。
例)
色々 いろいろ 所謂 いわゆる 此の・其の この・その 様々 さまざま ただし、本来の漢字の意味のままで名詞を修飾する語は、「漢字表記」が通例です。
例)
- 大きな
- 小さな
- 主たる
- 例の
- 我が
-
副助詞
活用形、品詞を問わずさまざまな語につき、副詞のようにそれらの語にいろいろな意味を添える語句です。一般的にひらがな表記が通例です。
例)
〜位 〜くらい・ぐらい 〜等 〜など 〜程 〜ほど 〜迄 〜まで -
接頭辞
接辞のうち、尊敬・丁寧の意を表す接頭語のこと。接頭辞の「ご(御)」は漢字で書く慣用が強いものや固有名詞的な語句は漢字表記、それ以外の接頭語はひらがな表記が通例です。
例)
漢字表記 ひらがな表記 御中 ご縁 御所 ご結婚 御免 ご当地 ただし、続く語句が「ひらがな表記」の場合は「御」もひらがな表記となります。また、常用漢字表にない漢字を含む語句は「ひらがな表記」となり、「御」もひらがな表記となります。
例)
御あいさつ ごあいさつ 御馳走 ごちそう 御尤も ごもっとも また、「御」は「おん」「お」とも読みますが、新聞表記では接頭語として使用する「お」は「ひらがな表記」が通例です。
例)
- お歳暮
- お世辞
- お屠蘇
そのほか新聞表記ではひらがな表記が適当な言葉
新聞表記では前述した活用形に応じた表記の通例の他、日常的に漢字で表記されている単語についてもひらがな表記が定められているものが多数あります。こうした表記を迷う言葉については「記者ハンドブック」を参照に対応を確認することが主流です。
例)
有難う | ありがとう |
---|---|
畏まりました | かしこまりました |
沢山 | たくさん |
子供 | 子ども |
躊躇 | ちゅうちょ |
松葉杖 | 松葉つえ |
我儘 | わがまま |
表記が混在する言葉
日本語はひらがな、カタカナ、漢字が混在するため、時と場合に応じて表記が使い分けられるケースがあります。
-
擬音語・擬声語
記者ハンドブックでは「なるべくカタカナで表記する」とありますが、同時に「ひらがなで表記してもよい」とも記載されています。そのため、多くの場合「擬音語・擬声語」は「カタカナ」で表記されています。
例)
擬音語 擬声語 ガタガタ キャアキャア ガチャガチャ ゲラゲラ ザアザア ペチャクチャ バタバタ ワンワン -
擬態語
記者ハンドブックでは「ひらがなで表記する」とありますが、同時に「ニュアンスを出したい場合はカタカナ表記でもよい。ただし、乱用しない」とも記載されています。そのため、多くの場合「擬態語」は「ひらがな」で表記されています。
例)
擬音語 がっかり きらきら つるつる ぐちゃぐちゃ -
動物や植物
動植物は常用漢字表に含まれている場合は漢字表記、含まれていない場合はひらがな表記が通例です。ただし、植物名を学術名称として使用する場合はカタカナ表記となります。
例)
- 桜餅
- サクランボはバラ科の植物だ
-
干支、十二支
記者ハンドブックでは「原則としてひらがな表記。必要に応じて漢字を使ってもよい」と記載されています。
例)
さる年・申年
-
その他
当て字や熟字訓などはひらがな表記となります。
例)
昨日 きのう 流石 さすが 明後日 「あさって」と訓読みする場合はひらがな表記、もしくは漢字表記に送り仮名をつける。「みょうごにち」の場合は漢字表記。 十八番 「おはこ」と訓読みする場合はひらがな表記、もしくは漢字表記に送り仮名をつける。「じゅうはちばん」の場合は漢字表記。
外来語・カタカナ語の表記
「外来語」「カタカナ語」は新しい言葉や概念が一般的になるたびに発音や表記が取り上げられます。そのため非常に表記ゆれが発生しやすい分野になります。
外国語の表記については日本語にない音を日本語になるべく近い音に当てはめる事例と、もともとの外国語の発音の特徴をなるべく残す事例が混在するため、「新聞表記で」と指定がある場合は「記者ハンドブック」などを参考に注意が必要です。
例えば外国の地名・人名は「ブロードウェー/ブロードウエー/ブロードウェイ」のように同じ語が異なるカタカナで表記される場合があります。また、「ロイヤリティ/ロイヤルティ」など発語によっては聞き取りが難しく、かつ、それぞれ意味がまったく異なる単語も多く存在します。
そのほか「ウィ・ウェ・ウォ」や「二重母音」などが多用されるカタカナ語については現在進行形でルールが改正されることもあり、全国紙でも統一がされていない語句もあります。
英語表記については、例えば「旧Twitter」は記者ハンドブックでは「ツイッター」とカタカナ表記とされますが、商品やサービスの公式ページを確認すると、「Twitter」で表記が統一されているため、「アルファベット」で記載をした方が文章として伝わりやすい場面もあります。
またGHQやWHOなど、名称の頭文字をつなげた省略語は大文字の英字で表示されます。
数字の表記
新聞表記上は縦書きということから元々は漢数字が原則でしたが、各新聞社とも2000年前後から洋数字が原則に切り替わりました。現在は「数量や順序などを示す場合は原則として洋数字(アラビア数字)」、「慣用句などは漢数字」とされています。
ただし細かい例外があります。例えば数える場合でも一つ二つの「つ」がつく場合や囲碁将棋での七段八段…、落語や歌舞伎などの二代目三代目…などでは洋数字では違和感があるとの声もあり漢数字のままとなっています。
また電話番号を除き、2桁の数字は連数字で表記、他には基本的に単位の「十、百、千」は使用せず、万以上の数字に「万、億、兆」をつけるなどの決まりもあります。
他に「ナンバーワン」「スリーマンセル」など外来語として定着しているものはカタカナ表記となりますが、「ナンバー2」や「ベスト4」になると洋数字で表記するなど、それぞれでルールが異なるので注意が必要です。
最後に
その他、新聞表記では細かなルールが多数存在しますが、「文字起こし」は「音声データ」という「音」を基に文字を起こすため、元となる原稿や原文が存在しないことがほとんどです。聞き取れる音に対して文字をあてることや、話し言葉の多い音源、起こし方、クライアントの要望によってはかならずしも新聞表記では対応できない部分が出てきます。
決められたルールがある場合やクライアントの意向がある場合は希望に沿った表記で「表記ゆれ」を起こさずに対応することが重要です。
日常生活の中で何気なく見かける表記であっても、文字起こしの世界では誤りとされるケースがあります。ここでは間違いやすい表記の具体例をクイズ形式で紹介します。
問題「」内の表記が正しいかどうか答えてください。
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- Q.事の「やり取り」を、できるだけ詳しく説明してください。
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A.正解は×。
正しくは「やりとり」。漢字を含む本来の表記は「遣り取り」ですが、あまり一般的な表記ではありません。
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- Q.これからインタビュー会話を「とりたい」と思います。
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A.正解は○。
録音なのでつい「録る」としがちですが、これは常用外の表記となるので、文字起こしとしては正しくないものになります。
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- Q.「私達」若者の声も政治に反映されるべきだと思っています。
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A.正解は×。
正しくは「私たち」。文字起こしで「達」を用いるのは「友達」ぐらいで、それ以外は「たち」を使うのが一般的です。
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- Q.本日の列車は「すべて」終了しました。
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A.正解は×。
正しくは「全て」。「すべて」の漢字表記はほかに「凡て」や「総て」がありますが、いずれも常用外の表記のため、文字起こしにおいては用いることはありません。
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- Q.最近の「はやり」には全くついていけない。
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A.正解は○。
「流行り」という表記は常用漢字表に入っていないので、平仮名表記が正答となります。
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- Q.無駄遣いと忠告したにも「かかわらず」、法外な高値で落札されたのですね。
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A.正解は○。
「関わらず」という表記がありますが、元の表記は「拘らず」。ともに常用外の表記となるため、文字起こしでは用いられない表記となります。
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- Q.滅多とないこのチャンス。「ぜひ」ともご参加ください。
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A.正解は○。
漢字表記は「原発再稼働の是非を問う」といったような場合に用いるのもので、副詞として用いる場合は平仮名表記が正当となります。
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- Q.「ご静聴」ありがとうございました。
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A.正解は×。
正しくは「ご清聴」。講演等を聞いてくれたことに関する感謝の意を表すのが「ご清聴」。「ご静聴」は話を静かに聞いてほしいといったときに用いる表記となります。
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- Q.この話が「嘘」か本当か、彼に聞いてみよう。
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A.正解は×。
「嘘」が常用漢字表に入っていないため。正しくは「うそ」と平仮名表記するのが正答です。
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- Q.得票率の「2/3」を得て、当選挙区でトップ当選を果たした。
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A.正解は×。
「3分の2」が正答。文字起こしでは「2/3」のような分数表記は用いません。
以上、代表的な間違いやすい表記について取り上げてみました。皆さんは何問正解したでしょうか?
普段なかなか気にすることがないと思われますが、新聞やネットニュース等を見る際にこの点に注目してみるとまた違った視点で記事を読むことができるのではないでしょうか。
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