マイクの指向性と種類
YouTubeなどWeb上のコンテンツが急増し、個人でも商品・サービスの紹介や広告プロモーション、インタビューなどを録音し、配信する機会が増えています。これに伴い、映像や音声を録音(録画)することが一般的になってきましたが、多くのコンテンツ制作者が直面する課題の一つが「音」ではないでしょうか。
もちろん映像のクオリティも重要ですが、音声のクオリティも同様に重要であり、音のボリュームが一定でない、環境音で聞き取り難いなどの不明瞭な音声では視聴者はすぐに離れてしまうでしょう。
音の良し悪しを左右するのはマイクなどの機材の質もありますが、使い方や設定・調整次第でも大きく変わります。
また文字起こしや字幕作成を目的とした動画や音声の録音(録画)は、インタビューや対談、講演会やシンポジウム、会議や打ち合わせなど、録音環境や話者の人数は様々であり、適材適所を考えたマイクの選択や設置が非常に重要となります。
今回は、均一な音量で高品質な録音を実現するためのマイクの選び方と設置方法について解説します。
マイクの指向性
マイク選びの一番のポイントは指向性です。指向性とは、どの方向の感度が良いのか、音を拾いやすいのかを示す指標で、マイクの用途や使い方に大きく関わってきます。
指向性は大きく分けて3パターン(もしくは4パターン)に分かれます。それぞれに適した設置方法、用途について説明します。
①全指向性/無指向性(Omnidirectional)
- 特性
全方向の音を均等に拾う。 - 設置
テーブルの中央や部屋の中心に設置することで、周囲の声を均等に録音できる。
天井や壁に取り付けて、部屋全体の音を拾うことも可能。 - 用途
円卓会議、グループディスカッション、自然音の録音など。 - 注意点
全方向からの音を拾うため、不要な背景ノイズも拾いやすいため静かな環境での使用が推奨される。
②単一指向性 (Cardioid)
- 特性
前方からの音を主に拾い、側面や後方の音を抑える。 - 設置
話者や音源に向けて設置し、話者が移動しないように固定するのが理想的。
スタンドやブームアームを使って、話者の口元に近づけることで、クリアな音を録音できる。 - 用途
インタビュー、講演、ボーカル録音など。 -
注意点
側面や後方の音が完全に抑えられるわけではないため、配置に注意が必要。
近接効果が強いため、適切な距離を保つことが重要。
※近接効果:マイクを音源に近づけるほど、低音域が強調される現象。
③超指向性 (Hypercardioid)
- 特性
単一指向性よりもさらに狭い範囲の音を拾い、側面や後方の音を大幅に抑える。 - 設置
特定の話者や音源に向けて、正確に設置する。
近接効果が強いため、話者や音源から適切な距離を保つようにする。 - 用途
ライブパフォーマンス、フィールド録音、ノイズの多い環境での録音など。 - 注意点
指向性が非常に強いため、設置の角度や位置が重要。
後方の音も若干拾うため、後方のノイズ源にも注意が必要。
④双指向性 (Bidirectional)
- 特性
前方と後方からの音を拾い、側面の音を抑える。 - 設置
対面する2人の話者の間に設置する。
インタビュアーとインタビュイーの対話を均等に録音できる。 - 用途
対面インタビュー、デュエット録音、ポッドキャストなど。録音、ノイズの多い環境での録音など。 - 注意点
側面からの音を抑える特性を活かすため、設置位置に注意が必要。環境音が反射する場合、設置場所に注意が必要。
マイクの値段はピンキリですが、一般的には数千円台のものでしたら一つの指向性しかもっていません。数万円台からのマイクでしたら複数の指向性に対応している機種もあり、切り替えスイッチで変更が可能です。
マイクの種類
マイクは多種多様にありますので代表的な種類をあげます。それぞれの特性を理解し、用途に応じて適切なマイクを選ぶことが重要です。
①ダイナミックマイク (Dynamic Microphone)
- 特性
耐久性が高く、比較的安価。高音圧に強く、外部電源が不要。 - 用途
ライブパフォーマンスやスピーチに適している。
外部の音を拾いにくく、騒がしい環境でも安定した録音が可能。 - 代表例
Shure SM58
②コンデンサーマイク (Condenser Microphone)
- 特性
高感度で広い周波数応答。詳細な音を拾いやすいが、外部電源(ファンタム電源)が必要。
非常にクリアで正確な音声を録音できるため、音質にこだわる録音に最適。 - 用途
スタジオ録音やナレーションに適している。 - 代表例
Neumann U87 Audio-Technica AT2020
③リボンマイク (Ribbon Microphone)
- 特性
非常に繊細で自然な音を拾う。壊れやすいため取り扱いに注意が必要。 - 用途
ボーカルや弦楽器の録音に適している。 - 代表例
Royer R-121
④ラベリアマイク (Lavalier Microphone)
- 特性
小型で衣服に取り付けることができ、目立たない。 - 用途
テレビ放送やインタビュー、講演などに適している。 - 代表例
Sennheiser ME 2
⑤ショットガンマイク (Shotgun Microphone)
- 特性
非常に指向性が高く、狭い範囲の音を拾う。 - 用途
映画やテレビのフィールド録音、屋外での撮影や遠くの音源を録音する場合に適している。 - 代表例
Rode NTG3
マイクの種類と指向性を組み合わせることで、高品質な録音が可能になります。録音の目的や環境をよく考え、適切なマイクと指向性を選びましょう。
携帯電話の内蔵マイクの性能
携帯電話の内蔵マイクは、通話用のマイクと兼用しているため最低限の機能のものとなり、用途からも無指向性のものが大半です。
もちろん通常の電話での使用には問題ないでしょうし、ボイスメモ等で録音しても特に不満はないでしょう。またiPhone限定にはなりますが、割と高性能なマイクが内蔵されているため、設定や環境をきちんと整えれば低価格帯のマイクよりは性能が上という評価もあります。
ただ講演や会議、インタビューなどまでになるとやはりクリアな録音とは言えないため、あらかじめ準備が可能な状況でしたら、外部マイクの使用がお勧めになります。
ハウリング(フィードバック)対策
ハウリングは、マイクがスピーカーからの音を拾い、それが再びスピーカーから出力されることで発生する音響現象のことです。この現象は、音がループすることで増幅され、耳障りで不快な高音や低音の持続的な音となります。
ハウリングの原因
- マイクとスピーカーの位置関係マイクがスピーカーに向かって配置されていると、スピーカーから出る音を再度マイクが拾いやすくなります。
- 音量の設定スピーカーの音量が高すぎる場合、マイクがその音を拾いやすくなります。
- 音響環境反響の多い環境ではハウリングのリスクが高まります。
- マイクの指向性指向性の低いマイク(無指向性マイクなど)は、周囲の音を広く拾うため、ハウリングが発生しやすくなります。
ハウリングを防ぐためには、第一にマイクとスピーカーの配置に注意することです。また、単一指向性や超指向性マイクを使用することで、特定の方向の音のみを拾うようにし、ハウリングのリスクを減らすことが可能です。
録音品質と文字起こし
録音品質が文字起こしに及ぼす影響は多大です。録音環境の最適化とマイクの選定が、音声の明瞭さや正確さを決定づけます。ノイズやハウリングが少ないクリアな音声は、後の文字起こし作業をスムーズにし、作業時間を短縮するだけでなく、最終的な文字起こしの質を向上させます。正確な文字起こしを目指すためには、録音段階での適切な対策が不可欠です。
音響の基本を理解し、実践することで、録音から文字起こしまでの一連の作業を効率的かつ高品質に進めることができるでしょう。
音声データの品質によって作業難易度、費用が変動します。ご予算と用途にあわせてボイスレコーダー/ICレコーダーやスマホ用マイクの機種を選定し、できるだけクリアな音質で録音されることをおすすめします。